~日本発の成分で、世界の美を変える~ コーセーの発酵技術 2026.02.27

コーセーが長年培ってきた技術の一つに「発酵」があります。「発酵」は、古くから味噌や日本酒など、日本の食文化を支えてきた伝統的なバイオテクノロジーです。発酵から得られる成分は、近年では「J-Beauty」を代表する、日本独自の美容成分として改めて注目を集めています。今回は、当社の「発酵」研究とその魅力について、研究員の小林 豊明と岡田 知也に話を聞きました。

写真左 ㈱コーセー 研究所 皮膚・薬剤研究室 岡田 知也(おかだ ともや)
福井県出身。2021年コーセーに入社。入社以来、皮膚科学研究や製品の肌に対する効果検証に従事。現在は、皮膚のバリア機能において重要な役割を果たす細胞間脂質の研究に取り組んでいる。

写真右 ㈱コーセー 研究所 皮膚・薬剤研究室 小林 豊明(こばやし とよあき)
和歌山県出身。2008年コーセーに入社。入社後メイク製品開発を経て2011年に異動し、アンチエイジング研究を中心とした皮膚科学研究と美容成分の開発に従事。継続して美白やアンチエイジング製品の開発に取り組んでいる。

「発酵」か「腐敗か」。発酵成分を化粧品に配合する難しさとは

― そもそも「発酵」とはどのような現象なのでしょうか?

小林 わかりやすく説明すると、目に見えない小さな菌(微生物)が、お米などをエサとして取り込み、分解・生成によって、私たち人間にとって有益なものを新たに作り出してくれる働きのことです。実はこの現象、同じプロセスをたどっても、人間にとって有益か有害かによって「発酵」か「腐敗」かに分かれるんです。例えば、お酒や味噌のように有益なものであれば「発酵」と呼びます。逆に、毒素などが生じて人間にとって都合の悪いものであれば、それを「腐敗」と呼んでいるだけで、発酵とは人間にとって望ましいかどうかで区分けした呼び名に過ぎないのです。

― 私たちの生活に役立つものを「発酵」と呼んでいるのですね。ただ、発酵というと独特の「匂い」があるイメージですが、それを化粧品に取り入れるのは、難しいのではないでしょうか。

小林 はい、化粧品に発酵の力を応用するのは、簡単ではありません。最大の壁は「匂い」と「色」です。 例えば納豆は食品としては素晴らしいですが、あの独特の匂いがするクリームを、毎朝顔に塗りたいと思いませんよね。

発酵によってアミノ酸など肌に良い成分がたくさん生まれますが、同時に独特の発酵特有の匂いが強くなってしまったり、茶色くなってしまうことがよく起こります。毎日楽しんで使う化粧品において「肌に良いから」といって、気分が乗らないものは、そのままでは製品にできません。いかに効果を最大限に引き出しつつ、毎日使いたくなるような心地よい「香り」や「感触」、「外観」をした化粧品を作り出すか。そのためには、最終的な商品の品質への影響を考慮しながら開発していく必要があります。そこが、私たち研究員が発酵と向き合う中で、よく苦労するポイントになります。

もちろん私たちが一番重要視するのは肌への効果です。発酵液は肌効果が見出されることが多く、使ったときの効果実感も感じ取りやすいです。用いる菌の種類と、合わせる植物などの素材、発酵条件の組み合わせによって無数の発酵液をつくることができ、できあがる発酵液によって効果は変わってきます。

日本発の美白有効成分。約40年にわたり愛される「コウジ酸」の真価

― 発酵のすばらしさと、そのコントロールがいかに難しいかが分かりました。そんな中、コーセーが長年研究を続け、発酵に関わる成分の「原点」とも言えるのが「コウジ酸」ですね

小林 はい。実は「コウジ酸」は、英語表記もあって「Kojic acid(コージック・アシッド)」と呼ばれています。「Koji(麹)」という日本語がそのまま世界共通の名称になっている、日本にルーツを持つ成分です。そもそも麹菌というのは、日本で唯一「国を代表する菌」を指す「国菌」に指定されており、コウジ酸が発見されたのは1907年と100年以上の歴史があります。

日本では、1970年代頃からコウジ酸の美白に対する研究がなされています。長い研究の末、1988年に美白有効成分として認可され、これはビタミンC誘導体以来の待望の出来事であり、画期的な成果でした。それから約40年近く、コウジ酸は美白の第一線で使われ続けています。

― なぜ、それほど長く信頼され続けているのでしょうか?

小林 やはり、確かな効果実感にあると考えています。長年製品をお届けする中で、お客さまから実感のお声をたくさんいただいています。実は、日々さまざまな製品に触れる機会の多いコーセーの研究員の間でも、コウジ酸の製品は人気があります。効果の裏付けとなる確かなメカニズムをよく理解していて、その実力を実感しているからかもしれません。メカニズムについてご説明しますと、シミの元となるメラニンは、肌の奥にあるメラノサイトという細胞で作られます。美白成分の中には、メラニンが作られるプロセスを間接的にサポートしたり、できた後のメラニンに働きかけたりするものがありますが、コウジ酸は細胞の中で実際にメラニンを作ろうとする酵素(チロシナーゼ)に「直接」働きかけ、その活動を抑えます。この「直効き」のアプローチこそがコウジ酸の特徴です。

― それだけ信頼のあるコウジ酸ですが、その歴史は決して平坦なものではありませんでしたよね。2003年、コウジ酸の存続に関わるような危機が訪れたとか?

小林 はい、厚生労働省から安全性に関する通達がありました。「現時点では直ちに安全性に問題があるとは考えられないが、追試試験が実施され、コウジ酸の安全性が明らかになるまでの間、新たな製造・輸入をしないことにより万が一のリスクを少なくする必要がある」というものです。この通達を受けてコウジ酸から手を引くメーカーもあったのですが、その後、科学的なデータによってコウジ酸の安全性情報が積み上げられ、改めてその安全性が証明されたことで、わずか2年後の2005年11月、劇的な復活を遂げました。コウジ酸は、厳しい基準をクリアして生き残った成分であり、その事実が、今の揺るぎない信頼に繋がっています。逆境があったからこそ、私たちは胸を張ってこの成分を世界に送り出せるのです。

このコウジ酸の力を余すところなく詰め込んだのが、2026年1月に発売した「コスメデコルテ ホワイトロジスト クロノジェネシス ブライトニング コンセントレイト 1.8X」です。今回初めて、コウジ酸を“通常品の1.8倍※1”という最高濃度※2で配合した美容液を開発しました。伝統ある国菌の恵みであるコウジ酸製品を、最新の科学と不屈の精神で届けたい。それが私たち研究員の思いです。

※1 ホワイトロジスト クロノジェネシス ブライトニング コンセントレイト比  ※2 自社内において

秋田の職人技と共に。玄米の可能性を引き出した「黒麹発酵液」

― コウジ酸という長い歴史を持つ成分がある中で、今また新しい発酵成分「黒麹発酵液(KUROKOJI※3」の開発に挑戦されたと伺いました。

小林 今回、私たちが目指したのは、栄養豊富な「玄米」を丸ごと発酵させることでした。通常、お酒造りなどでは精米したお米を使いますが、玄米の胚芽やヌカには豊富な栄養が詰まっています。これを全て肌への効果に変えられないかと考えたのです。

開発にあたり、私たちは開発に協力いただいた、秋田県にある創業100年以上の発酵の真髄を知る老舗の企業様にまで足を運びましたが、そこはまさに、経験とノウハウの塊のような世界でした。現地の職人の方は、無数に存在する菌のストックの中から、一つひとつの菌が持つ微細な性質の違いや「個性」を、まるで我が子のことのように熟知していました。 わずかスプーン一杯の中に、世界の人口以上の菌が存在するほど小さな微生物の世界が秘める可能性を伺い、私たちは、その圧倒的な目に見えない生命のエネルギーと、それを自在に操る伝統の技に触れ、「この知恵を化粧品開発に生かしたい」と強く思いました。

※3 アスペルギルス培養物(整肌・保湿)

― 開発にあたっての課題はどのような点でしたか。

小林 麹菌を繁殖させた米麹をつくるためには、お米を蒸して水分を含ませる必要がありますが、玄米はヌカに油分を含んでいるため、水を弾いてしまいます。「玄米を使いたいけれど、玄米では菌が育ちにくい」。そこで出会ったのが、「淡雪こまち」という非常に珍しい品種のお米です。このお米は、玄米でありながら、まるでスポンジのように水分をたっぷりと吸い込むことができる特殊な性質を持っていました。これを使うことで、玄米に菌を根付かせることが可能になったのです。

この特別な玄米に黒麹菌を合わせ、240時間もの時間をかけてじっくりと発酵させています。完成した発酵液を分析したところ、アミノ酸、ペプチド、ビタミンなど470種類以上もの成分が含まれていることに驚きました。これを人工的に再現することは、コスト的にも技術的にも難しいことです。これこそ、「発酵だからこそ」生み出せたものなのです。

― その「黒麹発酵液」は製品に高濃度で配合されているそうですが、発酵特有の「匂い」の問題は大丈夫だったのでしょうか?

小林 そこが一番のハードルでした。これほど高濃度で発酵液を配合すると、独特の匂いがしたり、感触がベタついたりして、とても化粧品として使えるものではなくなってしまうことが多くあります。狙った通り匂いの少ない発酵液を作り出すことができたものの、さらに原料となるお米の品質管理から徹底的に見直し、抽出や処方の工夫を重ねることで、高濃度でありながら嫌な匂いがなく、肌に吸い込まれるような心地よい感触を実現することができました。これらの研究の結晶とも言えるのが、「コスメデコルテ ユース パワー エッセンス ローション」です。研究員の独創的な発想と、職人さんの熱い想いと技術が生んだ生命力あふれる一滴です。

肌の水分保持能を改善する。「ライスパワーNo.11」の独自性と進化

― 発酵由来の成分といえば「ライスパワーエキス」もありますね。どのような成分なのでしょうか?

岡田 ライスパワーエキスは、最先端のバイオテクノロジーによって、お米のエキスを発酵・熟成することで得られます。できあがった発酵液には、複雑で多様な成分を含むことが特徴です。ライスパワーエキスにはいくつか種類があるのですが、中でもコーセーが長年着目し、製品開発に活用しているのが、2001年に日本で初めて「皮膚水分保持能の改善」という効能が認められた医薬部外品の有効成分「ライスパワーNo.11※4」です。

※4 ライスパワーNo.11(米エキスNo.11)

保湿というと、肌にうるおいを与えるというアプローチが多いのですが、「ライスパワーNo.11」の保湿へのアプローチは、肌の与えられたうるおいを保持する力を高めるというもので、肌が本来持つ力に働きかけます。そのメカニズムは、肌内のセラミドを生み出す力を高めることであり、与えられたうるおいを存分に活かすことができる肌へと変えていくという点が大きな特徴です。

― 医薬部外品の有効成分として「発酵液」があるのは驚きです。

岡田 実は、医薬部外品の有効成分の中でも「発酵液」は極めて稀なのです。 これまで有効成分として認められたものは単一の成分であることが多いです。

私たちはこの成分の可能性にいち早く着目し、それから約20年、長年蓄積してきた処方技術を駆使し製品を発売してきました。「ライスパワーNo.11」を配合した「ONE BY KOSÉ セラムヴェール ディープリペア」は、ブランドの顔となる美容液としてその地位を確立しています。

― そしてシワ改善の「ライスパワーNo.11+」も登場しました。

岡田 はい。「ライスパワーNo.11+」は、日本で初めて「水分保持能の改善」に加えて「シワ改善」の効能も認められた医薬部外品の有効成分です。他のシワ改善の効能を有する有効成分のメカニズムは、表皮や真皮に働きかけますが、「ライスパワーNo.11+」は、表皮、真皮、そしてその間にある「基底膜」の3か所に働きかけます。

基底膜は、表皮と真皮を繋ぎ合わせている重要な構造ですが、「ライスパワーNo.11+」には、この基底膜を分解してしまう酵素の活性を抑制する働きがあります。この「ライスパワーNo.11+」を配合した「ONE BY KOSÉ リンクレスW」や「ONE BY KOSÉ セラムシールド」、「インフィニティ ザ・リペア セラム」は、乾燥に加えてシワも気になるという方の肌悩みに、一つの成分で答えを出す次世代のエイジングケア※5です。

※5 年齢に応じたお手入れ

伝統と最新技術の融合。J-Beautyの新たな可能性

― 最後に、この「発酵」という技術を通じて、お客さまにどのような思いを届けていきたいですか?

小林 この「発酵」という技術は間違いなく世界で戦える日本の大きな武器になりますし、「J-Beauty」を象徴する存在にもなりえます。日本は、味噌や醤油、日本酒など、世界でも類を見ないほど豊かな「発酵文化」に囲まれてきました。伝統的な発酵技術と、私たちが長年積み重ねてきたライフサイエンス研究の融合は、他にはない無限の可能性を秘めています。素材と菌の組み合わせ次第で新しい価値が生まれるこの技術を、化粧品という形でより多くのお客さまに届けていきたいですね。

岡田 発酵由来の成分は、肌への素晴らしい効果が期待できる一方で、独特の匂いや沈殿が生じやすく、べたつきなどの官能面においても高濃度で配合するには非常に高いハードルがあります。お客さまに毎日気持ちよくお使いいただくために、コーセーが長年培ってきた発酵成分への知見を駆使し、効果と使い心地を高いレベルで両立させることが重要です。私たちのノウハウが詰まった製品を通じて、そこに込められた「コーセーの技術とモノづくりへのこだわり」をぜひ感じ取っていただきたいです。

 

 

 

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